私はインディーズバンドをひとつプロデュースしたことがあります。
メンバーはまだ全員21歳。
そこそこ演奏力はあるのですが、全体的にいまいちパッとしません。
曲も地味です。見た目もフツーすぎます。これでは売れると思えません。
まずはビジュアルから。とにかくひとめ見て忘れられないようなインパクトを。
親しみ安さの中に毒ともとれるポップなキッチュさを打ち出しました。
「生活感」と「消化できてないわざとらしさ」の共存?
このアンバランスさに、われながら比類なきセンスを感じます。
バンド名を言う時は覚えてもらうために、みんなで言う前に「一発柏手」。
これ、定番化させるように行っておきました。
これでお客は柏手とともにバンド名を思い出すんじゃないでしょうか。
「内輪の時代」と言うことを力いっぱい説きました。
半径5m内の会話のテンションよりも説得力があるものはないんだと。
カメラがあることを忘れたらいい、と言っときました。
競馬が好きとか、あえてもう晒せ、と。
ギターのやつはすぐにその気になったみたいでむしろ楽しんでくれてます。
とにかくバカなくらいに明るいイントロ、はじけたメロディーを。
彼らの得意の切ない楽曲はあえて封印しました。
嘘つくくらいでちょうどいい、売れるためにはインパクトしかねえ、と刷り込ませました。
詩の内容とタイトルには誰もが関心があり、誰もが触れないあの事しかないと思い、無理やり作らせました。そう「エロス」です。
キメにはあのフレーズを全員で叫ぶようにと、言っておきました。
売れるためにはとにかく強烈なインパクトなんです。
引かれるくらいがちょうどいいんです。
これで、一回聴いたら忘れられない曲に仕上ったはずです。
ボーカルの子がアコギが使いたいと言って聞かない。
曲にあわねえと思いましたが、ミスマッチとしてまあ面白いものになったんじゃねえかな、と思います。
しかし私は彼らのバンド名が気に入らない。
こんなバンド名じゃ売れないから変えろと再三言ったのですが、メンバーはこれに関しては譲りませんでした。
結果、関係は悪化してゆき、彼らは私の元を去ってゆきました。
・・・
まだ彼らのスタイルは模索中だったのでしょうか。
・・・1988年の事でした。
いろんなバンドが現れては消えていきました。
彼らは今、どこでなにをしているんでしょうかねえ・・・。